【伝統的工芸品のご紹介】~八重山ミンサー(沖縄県)~
2022.12.15 伝統工芸品について
【名称】
八重山ミンサー(やえやまみんさー)
【八重山ミンサーの産地】
沖縄県八重山郡竹富町、沖縄県石垣市
【八重山ミンサーとは?】
沖縄県八重山郡竹富町(日本最南端の町)や沖縄県石垣市で製作されている織物のこと。
「ミン」は綿、「サー」は狭い帯という意味です。
八重山ミンサーの明確な起源は、わかっていません。
アフガニスタン地方でよく使われていた絣(かすり)の帯があり、
それが大陸を横断して伝えられたのではないかと想定されています。
八重山地方に伝えられた後、琉球王国の民族衣装である「琉装(りゅうそう)」の角帯として使われていました。
1989年4月、伝統的工芸品に指定されています。
【八重山ミンサーの特徴】
特徴は、大きく2つあります。
・素材として綿糸を使い、「経畝織り(たてうねおり)」で織られている。
・柄模様に「縞(しま)」と「絣」が使われている。
絣模様は手作業で行われ、藍染の木綿糸を使った場合は、紺色と白色のコントラストが鮮やかです。
染料として使われているのは、植物では「リュウキュウアイ」「インド藍」「クール」「フクギ」など。
最近では、植物染料以外に化学染料も使用されています。
また、織り方は大きく2種類あります。
・手織り機の一種である「高機(たかばた)」で筬(おさ)を使って織る方法
・高機を使わない「手締め」という織り方
どちらの方法で織るかによって、帯を締めた時の感触や手触りが大きく異なるのも面白いです。
【八重山ミンサーの歴史】
先述の通り、アフガニスタン地方から大陸を渡って、八重山地方に伝えられたのではないかという説があります。
実は、他にもう一つ説が。
それが、木綿発祥の地と言われているインドから伝わってきたのではないか…という説です。
現存している文献によって、16世紀初期の琉球王朝時代に、木綿布が使用されていたことが判明しました。
ということは、当時から八重山ミンサーが既に織られていた可能性が高いのです。
八重山地域では、かつて通い婚が主流だった時代があります。
当時、「求婚された女性から男性への愛の証」としてプレゼントされていたのが、八重山ミンサーでした。
八重山ミンサーの特徴に、
「五つの四角と四つの四角が交互に並んでいる絣模様」「ムカデ足のようなヤシラミ模様」があります。
実はこれには深い意味があり、女性から男性へのメッセージになっているのです。
その意味とは…
「いつ(五)の世(四)までも末永く、(ムカデの足のように)足繁くおいでください」
当初は竹富町で主に製作されていた八重山ミンサーですが、現在は石垣島でも同様に作られています。
誕生後しばらくは紺色のみでしたが、今はさまざまな色で織られるようになりました。
また、綿糸だけではなく、「絹」「バショウ」「カラムシ」などの糸でも織られています。
帯以外に、日常生活で使える小物や名刺入れなど商品の種類も豊富になり、観光客にもとても喜ばれています。
【八重山ミンサーの製作工程】
①整経
これから織る帯の長さと幅を決めるため、以下の作業を行います。
・必要になる経糸の本数を、帯の幅から算出
・「絣糸(模様)」「縞糸(白線部分)」「地糸」の長さを揃える
②絣くくり
藍染めを行う前の準備作業を、「絣くくり」と言います。
絣糸を水に張りますが、藍染めせずに白く残しておく部分をひもでしっかりくくることから、この名が付きました。
絣模様の大きさが描かれている定規を使って、染色液が染み込んでほしくない箇所に印をつけてひもでくくります。
糸は、以前はイトバショウの皮でしたが、今はビニールひもを使ってくくることが一般的になりました。
③藍染め
絣くくりが完了した糸を水に浸して、糸に付着している汚れを落とします。
その後、脱水した糸を「経糸の地糸」「絣糸」「緯糸」の3つに分けて、藍染液に浸けて染めていきます。
染め方としては、液の中で「3分ほど揉む → 取り出す」という作業を、
十分な色の濃さに染まるまで繰り返し行います。
これは「空気に触れると酸化して発色する」という、藍染の特徴を用いるためです。
染料として使われるのは、藍染めの場合、主にインド藍です。
・ヤマモモ
・フクギ
・アカメガシワ など
どれも八重山の植物を使って染め作業を行っていきます。
④絣とき
染めた絣糸は、いったん乾燥させます。
乾かしたら、くくりひもを一つずつ丁寧に外していきます。
最後に「経糸の地糸」と「絣糸」の長さを整えたら、この工程は完了です。
⑤カチタミ(ノリ張り)
糸にノリ張りをして、張力が均質な状態になるようにします。
張力を均質化させる理由は、木綿糸は伸びやすいので、織っていく際に絣模様がずれたりすることを防ぐためです。
作業は、ノリを張った後に乾燥させるので屋外で行います。
家の石垣などに杭を打ち込んだら、糸を張りながら作業します。
糸の長さや作業当日の天候にもよりますが、長いときは2日ほど要する場合もあります。
手間はかかりますが、この作業を行うことで織りやすい糸になり、そして織った後も美しくなるので欠かせません。
⑥仮筬(かりおさ)通し
デザイン通りに、「経糸の地糸」「絣糸」「縞糸」を並べ、筬に一本ずつ通します。
織り幅を確認したら、この工程は完了です。
「仮」と呼ばれているのは、織る作業に入った時には筬から取り外すからです。
⑦経巻き
仮筬通しした経糸を揃えたら、「絣のズレ」「たるみ」「よじれ」に注意しながら丁寧に巻き取ります。
地糸や絣糸の張り具合を一定に揃えることによって、織物の出来栄えが美しくなります。
⑧綜絖(そうこう)通しと本筬(ほんさお)通し
経て巻きした経糸を機に乗せたら、
糸の先端を綜絖の目に一本ずつ前後に通していき、そのまま本筬にも通す工程です。
平織を基本とする八重山ミンサーですが、それぞれの通し方によって織りに変化を出していくこともあります。
なお、手締めを行う場合は、筬に通さずに織っていくので、本筬通しを行う必要はありません。
⑨製織
経糸に緯糸を通すための道具である「刀杼(とうひ)」を用いながら、
張力を整えた経糸に緯糸(藍染めした地糸)を通して織り上げていきます。
完成した織物は、一度洗濯をして仕上げます。
最後に検査して何もなければ完成です。